公社制度の問題
@外部からの干渉
第1の問題は、国の関与の度合いが大きいことから、外部干渉を避け難い体質を持っていることである。
公社は、そもそも設立の経緯からその事業が高度の公共性を有するものとして、厳しい国の監督規制を受けることとされている。国鉄においても、予算、役員人事、運賃、重要施設に対する投資等経営上の重要事項をほじめとして、非常に広範囲にわたり国会あるいほ政府の関与を受けている。このように国の関与の度合いが大きい場合にほ、その本来の趣旨を逸脱し、経営を無視した外部からの干渉を招く余地が生じることになる、特に、国鉄については、独占性を失った後においても、国営時代から培われた国鉄に対する過度の国民の期待が根強く残っているため、国政の場等で経営上の重要事項について政治的解決が図られることが多かった。具体的には、国鉄運賃が公共料金の目玉として常に抑制の対象となり、何度となく運賃改定法案が廃案となったため、適切な運賃料金体系が形成されず、その結果赤字や借金が増加していったこと、あるいは、極めて非採算な路線が各地において建設され、経営を圧迫したことなどが代表的な例である。
国鉄の独占性が存在した時期においては、このような外部干渉による弊害は余り顕在化しなかったが、国鉄の競争力が低下した今日においては、経営の健全性を著しく妨げる結果となって現れている。
A経営の自主性の喪失
第2の問題は、経営の自主性がほとんど失われているために、経営責任が不明確になっていることである。
民間企業においては、経営者は経営上の重要事項について自ら決断を下し、また、自らのカで事業を維持し、発展させるためにあらゆる努力を傾注する。そしてその成果に対してはすぺての責任を負うのが通常である。
これに対して、国鉄においては、国の関与の度合いが大きいため、経営上の重要事項について経営者に与えられる裁量の余地は、民間企業に比べて小さくなっている。このため、経営責任の所在が暖昧になり、役員、上級幹部も経営者としての自覚が希薄になる傾向にある。
このことは、あらゆる努力を払って企業を維持し発展させようとする経営者の経営意欲を損なうぱかりでなく、本来経営者の自主的判断で措置可能なことすら、積極的にこれに取り組む姿勢を失わせ、他の同種事業との比較において生産性やサービス水準の面で著しい低下を招く結果となっている。
B不正常な労使関係
第3の問題は、労使関係が不正常なものとなりがちであることである。
民間企業においては、団体交渉を通じ、労使が自主的に労働条件を決定しており、その結果は、経営の実態を反映しているのが通常である。
これに対して、国鉄においては、経営側に団体交渉に応じ得るだけの十分な当事者能力が付与されておらず、最も重要な労働条件である賃金についても、実質的には公労委等によって法定されている。このため、正常な団体交渉を行うことができず、経営側は賃金以外の勤務条件で妥協を行いがちである。他方、労働側も、国有鉄道であるがゆえの親方日の丸意識が払拭しきれていない上に、外部からの介入によって経営が左右されることもあって、生産性向上意欲やコスト意識が乏しくなる傾向にある。
このように公社制度から来る制約が、国鉄の労使双方に対し経営実態についての自覚を希薄にさせ、労使関係を不正常なものとしている。
C事業範囲の制約
第4の問題は、事業範囲に制約があり、多角的、弾力的な事業活動が困難となっていることである。
大手の私鉄事集者は、流通業、不動産業等を兼営することにより沿線開発の利益を吸収するばかりでなく、その信用カ、資金力を背景に、それ以外の分野にも進出して積極的に経営の多角化を進め、企業全体として収益カを高めるとともにその活性化を図っている。
これに対して、国鉄は、国営事業を承継し、その事業を経営することにより公共の福祉を増進することを目的とした企業体であり、事業範囲もこの目的を達成するためのものに限定されている。
したがって、国鉄が今後事業範囲を拡大し、多角的経営を進めていこうとしても、現行公社制度の下では、公社そのものの存在目的からするとおのずから限界があり、私鉄並み関連事業経営は難しい。
以上のような公社制度の間題点は、公社という経営形態のあり方そのものに内在する構造的なものであることを認識する必要がある。同時に、国鉄の事業と基本的に異ならない鉄道事業を、数多くの民間鉄道事業者が健全に経営している現実に目を向ける必要がある。
公社制度を推持する限り、その制度に構造的に内在する弊害は依然として存在し統けるわけであり、これを打破するには、現行公社制度を民営化することによって、経営者の官僚的体質の改善と職員の意識改革を図るしか道はないと思われる。
ただ、国鉄経営の今日の破綻は、公社という経営形態のあり方に伴う問題点のみから生じたのではないことに注意する必要がある。次に述べるように、全国一元の巨大組織として運営されていることに伴う弊害とあいまって、今日のような危機的状況を招いたのである。したがって単に経営形態を改めるだけでなく、全国一元の巨大組織であることに伴う弊害を究明し、これを是正するための措置を併ぜて講じるのでなければ抜本的な経営改革の方策とはならない。